酒井 淳 氏へ「贈賞にあたって」 堤 剛
【第15回齋藤秀雄メモリアル基金賞資料より】
私が最初に酒井さんに出会ったのは彼がまだ可愛い坊やの頃で、名古屋にあった「スタジオ・ルンデ」での私のリサイタルの時でした。其の時既にチェロを始めておられ、お母様に連れて来られたのです。私がプログラムにサインをしている写真が今でも残っています。
その次に会ったのはカナダの西海岸にあるヴィクトリアという町で催されていた夏の講習会で、チェロの巨匠ハヴィー・シャピロ教授のクラスに参加されていました。其の頃からチェロと本格的に取り組んでおられ、シャピロ教授も「アッシは大した才能の持ち主だ!」と感心されておられたのを覚えています。
数年後フランスのパリに留学され私の友人でもある高等音楽院のフィリップ・ミュレル教授に師事、チェリストとしての地位を不動にされました。
彼の地でピリオド・インストゥルメントに興味を持たれ、この方面でも多数の方から尊敬される存在となり、今やモダーンチェロ/バロックチェロ/ヴィオラ・ダ・ガンバの三種の楽器で大活躍しておられます。
どの楽器を使用しての演奏も勿論素晴らしいのですが、酒井さんは学究肌的な面も持っておられ、彼が私共「日本チェロ協会」の会報に寄せられた一文はとても立派で解り易く、深い内容を持ったもので皆大いに感心させられました。

その後桐朋学園大学の特任教授のポジションも引き受けて下さり、教育者としても貴重な存在だ、という事を立証されました。校内でクラスの一つを拝聴させて頂いた時はバロックダンスについて講義されていましたが、実際に種々のダンスを学生の前で披露される事によって学生達の理解度がグーンと深まり、生きたものになりました。
酒井さんの幅広い活躍ぶりは経歴書などの通りですが、私はその国際的な幅広い活動によって日本のチェロ界のみならず音楽界全体に大きな刺激を与え、ヒ°リオド奏法等がより身近なものになり、歴史が如何に現在と結びついたものであるかを私達に改めて実感させて下さいました。静かではありますが力強いリーダーシップを発揮されていると言って良いと思います。

今回選考委員の先生方の強い推薦を得られて「齋藤秀雄メモリアル基金賞」の受賞者に選ばれましたが真に相応しく、私達皆とても嬉しく思うと同時に今後のますますの活躍を期待致しております。
【贈賞式でのスピーチ】 堤 剛
酒井さん、この度は齋藤秀雄メモリアル基金賞のご受賞、本当におめでとうございます。
これまでの大変なご努力、ご精進、そして研究を高く評価されての受賞だと思います。チェロ、指揮、そして教育者として素晴らしい成果を上げられました故・齋藤秀雄先生が歩まれた道に通じるものがあるように思います。
私事になりますが、今回私は毎日芸術賞という賞をいただけることになりました。その対象となりましたのは軽井沢大賀ホール、そして札幌コンサートホール Kitara での「J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲演奏会」です。私にとってバッハは、齋藤先生から手とり足とり教えられたことに始まり、それから自分なりに研究し続けてきたものです。私自身のバッハは酒井さんが目指している解釈やスタイルとはまた違っているかもしれませんが、“違っている”ということで、酒井さんの存在というものは私にとりまして大変励みになっています。ですので、これからもいわゆる音楽の中の colleague(仲間)として、一緒にいろんな意味で音楽の幅を広げていきたいと思っています。
酒井さんはこれまでヨーロッパで素晴らしいご経験を積んでこられました。これからもますますキャリアを伸ばして活動を続けていただき、そしてときどき日本でもその成果を見せていただき、桐朋学園を通じての教育活動も続けていただきたいと思います。
これからの酒井さんの益々のご活躍と Bonnechance(ご幸運)を祈念して私のご挨拶とさせていただきます。本当におめでとうございました。

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