ルンデあしながクラブ10周年記念コンサートに寄せて

 7月23日(火)付 中日新聞朝刊に、《ルンデあしながクラブ10年とガラ・コンサート》の記事が掲載されました。新聞は紙面スペースの関係でしょう、こちらから提供した文章が若干変更・割愛されていて、場所によっては文意が通らないおそれもありそうなので、ここでは、原稿の方を全文、以下にあらためて紹介します。
新聞記事
 

《ルンデあしながクラブ》のこと 〜 10周年記念ガラ・コサンートに寄せて

 1981年、恐らく民間では日本初の室内楽専用小ホール(ホールと云うには恥ずかしい程チッポケですが)スタジオ・ルンデを、多くの友人達の協力も得て設けました。ルンデの活動について志した事――それは、この地方を一つの建物と考えた時、たとえ小さくても、常に新鮮な外気を取り入れ、また周囲の状況を見渡すことのできる一つの『窓』でありたいという事でした。そして取り上げるジャンルは、まず室内楽全般、それから現代音楽、古楽、さらに若い音楽家――つまりは商業ベースに乗らないものばかりだった!最初のコンサートは、当時現代音楽の旗手として評価の高かったラサール弦楽四重奏団(アメリカ)の20世紀作品集、そして《若き音楽家を迎えて》シリーズの第一回としてまだ東京芸大の学生だったヴァイオリンの古澤巖……。その後もこのシリーズには、いまは立派に成長し国内外で立派に活躍している人達の「無名時代」を取り上げてきました……上村昇、澤和樹、漆原啓子、迫昭嘉、須川展也、諏訪内晶子 etc.  若い人が無心に演奏に挑戦する姿は、実に清々しく、潔く、エネルギーに溢れています。
 そしてルンデ創設10年を経過した時、意欲的で可能性を秘めた若い音楽家達を、(公的機関、大企業、財団組織ではなく)聴衆一人一人の力を集めて、積極的に応援したいと考えて発足させたのが《ルンデあしながクラブ》でした。会員は関東・東海・関西各地方にわたり、現在約70名が登録されています。このシステムは、大方の「新進紹介一回きり」方式とは視点を変えて、一人一人の成長過程をじっくり見守って行くことを主眼に、可能性をもつ若者を厳選しました(但しクラブの資金規模から、人数は限られましたが)。彼等に課せられるのは、常に前進を心がけその成果を恒常的に発表すること、そして将来は自らも「あしながおじさん」になること。幸いにしていままで選んだ若者達はその期待を裏切らない成長ぶりを示してくれています。
 発足10年を経過した昨年、その若者達の方から「10周年をやりましょう」と先に提案されました。願ってもないこと、と計画に取りかかりましたが、主役達がいずれも海外でそれぞれに活動しています。スケジュール調整に難航した挙げ句、「あしなが年度 11年目」が始まる日=今年6月1日に実現しました。
 今回出演したのはメインの三人――11才の時からルンデでリサイタルを開き「あしなが」発足のきっかけとなったとも言えるチェロの酒井淳(さかい・あつし。名古屋出身、パリ在住)、その楽器の特殊性故に中学卒業と同時に単身ドイツへ跳び出して行き、その後日本でもホール建設ラッシュの余慶で活動の場を得られるようになったオルガンの吉田文(よしだ・あや。名古屋、ケルン在住)、偶然ルンデで自主リサイタルを開いた事から、その音楽性に魅かれたピアノの磯田未央(いそだ・みお。千葉、シカゴ在住)……余談ながら、彼等に共通なものは、日本で高校・大学教育を受けていないこと。それに「ゲスト」として最近活躍が目立つ二人、ソプラノの星川美保子(ほしかわ・みほこ。愛知、東京在住)、ヴァイオリンの永田真希(ながた・まき。愛知、東京在住)が加わりました。
 コンサートのプログラミングは、例によって、演奏者たちが、いま一番演奏したいものを提案し合いました。「例によって」と言ったのは、これまであしなが」では全く自主的にプログラムが選ばれて来たからです。それについて当日のプログラム・ノートには「自己のアイデンティティーを確立出来た」という意味の事を彼等自身が記しています。もっともそれは、時には「もっとよく知られている楽しい曲をやれ」とアンケートに書かれ、評論家氏から「身の程知らず」と切って捨てられた事もありましが、今彼等が為すべきこと、今だから出来ることを堂々と披瀝して欲しいと励ましてきました。
 さて、当日はソロはもとより、お互いがデュオ、トリオを組んで交流し、最後には、全員で(かのパブロ・カザルスの1971年国連会議場でのエピソードにあやかって)「鳥の歌」を演奏し、心を込めた平和への願いで二時間半を超える長いコンサートを閉じました。
 この活動も、ご他聞にもれず世の不況のあおりをまともに受けていることもあり、現時点ではまだ次の「あしながコンサート」の具体的な計画は練り上がっていませんが、明るい未来を築いてくれるであろう若い力を信じて、粘り強く展開して行きたいと願っています。

《ルンデあしながクラブ》代表:鈴木 詢

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