Weekly Spot Back Number
March 2002


134 いまどきのセンセイは……    4月 8日版



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【134】 2002年 4月 8日号

Teddy●いまどきのセンセイは……
 今は亡き名人、先代三遊亭金馬師がよく使っていたマクラに、『古い川柳に「先生と呼ばれるほどの馬鹿でなし」などと詠まれております。もっとも、センセイてェのは、先ズ生キテルと書くんだそうで……まァず生きてるセンセイなんざァ有り難くありません。寄席の方では、我々落語家は「師匠」ですが、何故か講談の方は「先生」と呼ばれて敬われておりますナ。もっとも時には慣れないお客様が間違えて、我々も「先生」と呼んでくれます、こちらもついつり込まれて返事ィしたりて……。「おい、センセイ」「ヘェイ?」「ちょっとこのハイフキ捨ててクンネェ」。ハイフキを捨てるセンセイなんざァ有り難くありませんが……。「先生と呼んで 吐月峰捨てさせる」なんてんで……。』などと云うのがあった。どうも、先生、甚だ形勢不利である。
 もう20年近く昔になるが、当時売り出しのオーボエ奏者、宮本文昭がルンデに来演した折り、いい機会だからと、公開レッスンを企画した。彼は快諾して呉れたが、受講者に「ミヤモトサンでいいですよ。センセイと呼ばれると、なんかダラクしたような気がする」とやって、一同大いに笑ったものだが、センセイ商売の端くれを務める者の耳には、なかなかサビの利いた皮肉に響いて、苦笑したことであった。
 ところで「いまどきの若い者は……」とか「いまどきの学生は……」とか、世のセンセイ方の嘆き節をしばしば耳にするが、最近続け様にこんな例にぶつかった。

 その壱:
 A紙、某大学助教授の連載「親バカ」コラムの第1回。
 曰く『心理カウンセラーとして、人様の悩みをお聴きするのを仕事とする私は4歳の娘(**=実名!)の父親でもある。』=文句その1:何故わざわざ実名だ? たかだか400字足らずの今回の文中ではそれが必要とされる場面無し。
 曰く『……保育園にお迎えに行った時など、ほかの親御さんには悪いが「掃き溜めにツル」が実感である。』=文句その2:おいおい、言うに事欠いてなんて表現なんだ。他人を思いきり貶めることで自らを褒め上げることにするつもりかよ。「掃き溜めにツル」は、元来どちらかと言えば謙虚な表現なんだよ。自らが「掃き溜め」の住人で、そこへ思いがけなく素晴らしい訪問者があった、と云うような。こんな唯我独尊式人物が心理カウンセラーとは恐れ入る。
 曰く『……30分だけ全身全霊で遊び相手に(云々……で、)たかが30分というなかれ。そのほんの少しの悪あがきが実は大切だと、自分をほめてあげている次第である。』=文句その3:言っていることの大筋は間違っていない。然るに、である。「自分をほめてあげる」とはなにごとぞ。何故、自分のことを「ほめてやる」と言えないのだ? 前の「掃き溜め」ともども、これでユーモラスに宣うたつもりなのか? しかしそれは無理だろう。もっとも、なにせ今や「ペットにエサをアゲル」「(自分の)子供に何かしてアゲル」「(スポーツ解説者が)相手に点をアゲル(! おお、何と優雅なお競技の時間よ)」という表現が罷り通る時代ではあるが、せめてダイガクのセンセイくらいの「有識者」は、世のため人のためにも、こういう場面では堂々と「なになにしてヤル」とするのが適切な表現だと、シモジモを教育して欲しいものである。

 その弐:
 C紙の「市民版」面。『有料駐輪場ガラガラ――昨年度の利用状況』という、地下鉄駅周辺で市が運営する自転車置き場の不人気さを取り上げた記事。
 利用喚起のための市側の様々な努力を挙げ『……啓発キャンペーンなどを実施したが、焼け石に水なのが実態だ』と嘆く。嘆くのはいいが「焼け石に水」とは何ともヘンテコな用法ではないか。記事のタイトルは「有料駐輪場ガラガラ」なのだ。これが、駐輪希望が多すぎて、ちょっとばかり場所を増やしてみても効果がない場合を「焼け石に水」と表現するなら判るが、ここでは逆の状況なのだ(仮に百歩譲って、いくら宣伝しても一向に放置自転車が減らない状況を嘆いたものと解釈しようとしても、やはりムリだ)。ここでは、努力を重ねても利用者が増えないことを嘆くのだから、せめて「笛ふけど客踊らず」と言って欲しい。
 たとえ記事を書いた記者の不注意であっても、紙面に載る前に、コワーイ校閲センセイがお目をお通しになるはずである、読者の投稿文に自由に手を入れ、タイトルや表現しようとした意図をすら変えてしまう程の権威をお持ちのセンセイが。にもかかわらず、このミスとしか言い様のない場面に遭遇するとは、ナニヲカイワンヤ。

 「いまどきのセンセイは」と、つい憎まれ口も叩きたくなろうというものである。

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