●やっぱりヘンな日本語〜2 「ヨロシカッタデスカ」 etc.
これは「ヘンな」と言うより「気になる」とした方がいいのかもしれない。最近とみに耳にするようになった言い回しである。
曰く「ヨロシカッタデスカ?」
曰く「ダイジョウブデスカ?」
電話のベルが鳴る。「もしもし、○○さんでヨロシカッタデスカ?」
ためしに「いきなりヨロシカッタデスカと言われても、なにがヨロシイのか返事のしようがないヨ」と答えたら、「カクニンです」と来る。「藪から棒にカクニンったって、何をどう確認したらいいのか判らないよ」。「つまりこの番号で良かったかという事です」……と、とにかく訳のわからないやりとりに際限がない。
要は「○○さんですか?」、「○○さんのお宅でしょうか?」といえば足ることだ。いや、いままでそれで充分足りてきた筈なのに、何故ヘンに意味のない言い回しになったのだろう。
それでも我慢して我が家は○○に違いないから「○○です」と答えると、「いまお話ししてダイジョウブデスカ?」。いまさら何を心配してやがるんだ。大体「ダイジョウブデスカ」とは考えようによってはひどく失礼な言い方だゾ。日常生活の中でトンチンカンな受け答えをした相手に「おいおい、ダイジョウブか、お前」などとやるだろうに。相手の都合を聞きたいのなら「いまちょっとお時間を戴いてもよろしいでしょうか?」と言えばいい。それに対してこちらが「いいですよ」とか、それこそ「大丈夫ですよ」とでも答えるのではないか。
これらの言い回しは、コマーシャルやドラマのセリフを通して茶の間に侵入してくるので、みんな抵抗無く学習して、そういうものだと世に通用してゆく(このテレビを介しての波及効果は大したもので、例えば子供も大人も「スゲェ」「ウメェ」を、江戸っ子気取りの、或いはちょっとワルぶってみる意識など皆目関係なく、至極普通に使うようになってしまった)。
今やこの「ヨロシカッタデスカ」の氾濫振りにはあきれかえるばかりである。
例えば、何か書類を記入しなければならない場面で、対応してくれる係員のセリフはざっとこんなものである……。
「お名前お聞きしてヨロシカッタデスカ?」
「ご住所お聞きしてヨロシカッタデスカ?」
「お電話お聞きしてヨロシカッタデスカ?」……
ああこのおそるべきワンパターン。
そもそも「ヨロシカッタデスカ」と言いながら、その実それらは絶対に聞きとる必要のあるデータなのだろう。「ヨロシカッタデスカ」を連発されると、こちらはへそ曲がりだから、時には「イヤだ」と言ってみたくもなる。
「お名前をお願いします」
「ご住所はどちらですか」
「お電話番号をお聞かせください」……。
とでも順に調子よく聞かれれば、答える方にも何の抵抗もなく、スムーズにことが運ぼうというものではなかろうか。
ああ、「ヨロシカッタデスカ」「ダイジョウブデスカ」アレルギーが、花粉症並みに日増しに強くなるようだ。
ニュアンスに富んだ日本語の言い回しが、日に日に薄れてゆく。いやだいやだ。
◎追記:いまテレビから聞こえてきたコマーシャル――電話の場面――
セールスマン「いまダイジョウブデスカ?」
客の女性「ダイジョウブデス」
つい最近までなら、多分――
セールスマン「いま、少しお時間を頂いてよろしいでしょうか?」
客の女性「はい、どうぞ」
だったろうに……。
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