57 | 誕生したてのコンクール(1) | 10月 2日版(第1週掲載) |
58 | 誕生したてのコンクール(2) | 10月 9日版(第2週掲載) |
59 | 二人の挑戦 | 10月16日版(第3週掲載) |
60 | スポーツあれこれ | 10月23日版(第4週掲載) |
61 | 話にならない話 | 10月30日版(第5週掲載) |
2000年10月第1週掲載 |
2000年10月第2週掲載 |
2000年10月第3週掲載 |
![]() 10月はじめ、二週続けて女流アーティストの「挑戦」を聴いた。小山実稚恵と山崎伸子である。言うまでもなく、ピアノの小山、チェロの山崎、ともに日本を代表する演奏家として国際的に活躍し、いまやまさに「脂の乗りきっている」という形容が当てはまるだろう。その彼女らの興味ある「挑戦」に続けさまに立ち会えたのだから、幸せな一週間であった。 まず小山実稚恵(10月8日ルンデ)。 ![]() 『第1部は、バッハの色々な試みを正々堂々と表現できればと考えて構成しました。 第2部は、声楽的な響きを感じる作品を中心に、とにかく心が透き通るような雰囲気の作品を並べるように心掛けました。第1部と第3部になるべく躍動的なものや舞曲的な性格のもの、そして力の充実した作品を集めたので、それと第2部の性格の違いの対比をどう表現していくかが最も大きい課題だと思っています。 第3部では、ソナタの原形を感じさせるような未来に向けて放たれている光と、音楽で表現されている陰を意識して並べてみたつもりです。受難曲や詩篇との関係など、楽譜の後ろに込められたメッセージを感じながら演奏したいと願っております。』(内容の詳細は彼女自身の「プログラムノート」を参照されたい)と述べているように、原作の、ハ長調から始まり半音階的に同主長・短調を配列して行った言わば「機械的」構成を、曲想の検討から全面的に見直した大胆な発想で再構築したもので、演者・聴者ともにそれまでの記憶を真っ向から否定してかからねばならないスリリングなコンサートとなった。無慮3時間に及んだこの日のリサイタルは、充足感と疲労感、新たな発見ととまどい、等々の混在したという意味で「希有な出来事」であったが、演奏家が強く自己主張した「貴重な時間」を実感し得たことを多としたい。 なお、さすがの彼女もこのコンサートの直前の9月末は、多くの仕事を断って没入に務めたという。思い入れの深さたるや推して知るべしである。 山崎伸子は10月15日(同じくルンデ)。 ![]() その日彼女は常になく憔悴した雰囲気で現れ、まず我々を驚かせた。聞けば「さらってもさらってもうまく弾けなくて……」極度の緊張感で睡眠が充分にとれない状態が続いているという。さらには「今日は出演料返せと言われるかも」との弱音も出るのである。確かにバッハの「五番」とコダーイにレーガーのおまけが付くとあっては並大抵ではない重量級のプログラムだ。 コンサートは、予想外とも思えるレーガーで始まったが、なに、心配するほどでもない結構な出来で、冒頭こそ幾分の固さが見られたものの、弾き進むにつれて彼女本来の闊達な音楽が溢れ出て、おのずから「さらいにさらった」効果が充分現れていたのはさすがで、コダーイは名演と謳っても過ぎることはないと感じた。しかし、終演後いささかホッとした面持ちでもらした「でも、わたしはやっぱり室内楽の人間みたい」とのつぶやきもまた、いつまでも心に残るものがあった。 いずれにせよこの二人のトップ・プレイヤーが敢えて挑戦したコンサートは、本人にも周囲にも大いに意義あるものであったことは確かであり、深甚なる敬意を表すとともに、今後一層新たな境地を開拓されんことを期待するものである。 |
2000年10月第4週掲載 |
2000年10月第5週掲載 |